私は散々顔とかスペックにこだわって打算で恋愛をしてきたけれど、結婚だけは真っ当な恋愛結婚に憧れている。
大学生の頃から家の名前を使って港区女子たちを食い散らかしてきた司と結婚なんか……まぁ、青木さんとの関係がダメだったら、それでいいかも。
青木さんじゃないんだったら、きっともう真っ当な恋愛なんてできない。
大人になっても何気ない毎日の中で純粋に人を好きになれたのは奇跡だと思う。打算的な私にとっては、おそらくこれが人生最後になるだろう。
青木さんに失恋したら、どうせまた男をスペックで値踏みするのだ。だったら司を選べばいい。
「あんたなんか……保険にしたるからな……」
「おーい。愛華? 落ちたな、こりゃ」
「どうされます? マネージャー」
「空いてる客室に寝かしとくよ」
翌朝。
私はシャトー・ジャルダンの客室で目覚めた。
一度自宅に戻れるほどは時間に余裕がなくて、昨日と同じ服のまま出社した。
コンディションは最悪だ。
飲んだのがいい酒だったからか二日酔いはないけれど、顔の浮腫みがひどい。メイクしたまま寝てしまったことで毛穴が詰まり、ファンデーションのノリがいまいちだ。ホテル内のコンビニで買った下着は着け心地が悪くて違和感がある。
青木さんは私より少し遅れて出社してきた。
彼が昨日と同じスーツを着ていることに気づき、すうっと血の気が引く。
それがどんな可能性をはらんでいるのか、わからないふりはできない。
「おはようございます、青木さん」
「……おはよ」
お互いの挨拶に刺があった。
「昨日のパーティーの報告なんだけどさーー」
「ああ、それなら広瀬くんがーー」
昨日サインを送り合ったにもかかわらず夜を共にしなかったことについても、お互いに昨日と服が同じであることにも、言及しない。
私としては司とのことにも服のことにも言い訳をしたいのだけれど、そんな雰囲気を作れない。そうさせてくれない。
私の話など聞きたくないのだろう。だったら仕方がない。
私たちは別に、干渉し合える間柄というわけではないのだから。



