その後、我々SK企画と森川印刷のメンバーは、結局このホテルで解散することになった。
 駅近くの居酒屋で打ち上げをしようという話をしていたが、すでに午後9時になろうとしているし、私とまりこ、森川印刷のスタッフは会社に着替えを取りに戻らねばならない。
 どう考えても遅くなってしまうので、また後日改めて開催しようということになった。
 今夜はこれから青木さんと一緒だ。
 着飾った私を乱させる約束を……したわけではないけれど、暗黙の意思確認はあった。
 部屋は片づいている。朝食にできるような食べ物はないかもしれないから、ふたりで途中のスーパーに立ち寄ろう。
 司のこと、誤解だってちゃんと説明しなきゃ。ついでに嫌みを言われたことを突っついてやる。
 彼との夜に心を踊らせつつ、ホテルのスタッフが小さな花束にしてくれた飾りの花を受け取り、クロークに預けていたコートを着る。
 先に下へ降りた広瀬がタクシーを呼んでくれているそうなので、まりこと急いでエントランスへ向かった。

 ガラスの扉が開いた瞬間、晩冬の夜の冷たい空気が襲ってきた。コートを着ていても中は薄手のパーティースーツなので、繊維の間を縫って入り込んだ冷気が肌を刺してくる。
 正面には広瀬ひとりとタクシーが1台。
 てっきり山中部長と青木さんも一緒にいるものだと思っていたのだけれど、見当たらない。
「部長と青木さんはまだですか?」
 まりこが尋ねると、広瀬は肩を上げて答える。
「部長は会社には戻らず直帰するって言って、歩いて駅に行っちゃった」
「青木さんは?」
「森川社長とふたりでタクシーに乗ってったよ」
「えっ……」
 まりこと私の声が重なる。
 ちょっと待って。どういうこと?
 森川社長とふたり? どうして?
 今夜は私と過ごすんじゃなかったの?
 もしかして、男のロマンとやらを森川社長と叶えるつもりなのでは。
 そう思い至った瞬間、ふたたび胸にナイフで貫かれたような苦痛が走った。