司が余計なことを言ったこと、周りが勝手に期待して盛り上がっていること、青木さんに冷たく茶化されたこと。
すべてが腹立たしくて、悔しくて、悲しくて、気を張っていないと泣いてしまいそうだ。
クライアントや他のスタッフもいるのに、こんなところで泣いてたまるか。
私が人の前で泣くのは、自分をそう演出したい時だけだと決めている。今のところ、本当の涙は青木さんにしか見せたことがない。
私はまだ痛みの残る胸に無理やり空気を吸い込んで、主に青木さんを鋭く睨む。
「人の話も聞かずに憶測で勝手に盛り上がらないで」
思いのほか低い声が出た。私の怒気を感じ取った周囲が水を打ったように静かになる。
しまった。クライアントもいるのに、気まずくなっちゃう。
笑ってお茶を濁したいところだが、ただでさえ胸の痛みに耐えながら涙をこらえているので、上手に表情が作れそうもない。
どうしよう……。
呼吸がまた浅くなり、苦しさを感じた時。
「彼女がこんな感じでつれないので、なかなか縁談には持ち込めないんですよ」
いつの間にかそばに来ていた司が、おもしろがるようにそう言って私の肩に手を置いた。
「やめて」
私がそう言って肩の手を払うと、「ね? つれないでしょう?」とおどける。
「私を悪者にしないで。あんただってその気はないくせに」
「いやいや俺はいつでもウェルカムよ?」
「みなさん、騙されないでくださいね。この人、爽やかそうに見えてめちゃくちゃ腹黒いので」
「腹黒さで言えばおまえだっていい勝負だろ」
こんなやり取りをみんなが笑ってくれて、冷えていた空気が和んでいく。
この男に恩を感じるのは癪だけれど、助かった。
雰囲気がよくなったところで、司がホテルマン然とした態度に戻る。
「突然お邪魔してすみませんでした。今スタッフがお飾りに使ったお花を持ち帰れるようにしております。せっかくですから、ぜひお持ちくださいね」
司は綺麗な所作で深々と頭を下げ、「それでは失礼いたします」と営業スマイルを見せて去っていった。



