フラれもの同士(原題:頑固な私が退職する理由)


「おい青木、予算は大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫……なはずですけど、俺も心配になってきました」
 青木さんは社用スマートフォンを取り出し、イベント会社からメールで送られてきた見積書を探し当て、金額の桁を確認していた。
 数字とにらめっこするビビリなふたりに、私は笑顔で告げる。
「大丈夫ですよ。たまたま安くこの部屋が借りられたんです」
 この会場を押さえたのは私だ。マネージャーである司に直接連絡をして、パーティーの趣旨や予算を伝え、この日ならいい部屋が空いているからということで日取りが今日に決まった。
 その“いい部屋”というのがここのことだったのだろう。
 まったく、持つべきものは御曹司の幼馴染みである。

 間もなくイベント会社のスタッフ数名、そして森川印刷ネイル部門の3人と合流。
 本日のメインホステスである森川社長は、オフショルダーのマキシ丈マーメイドドレスを身につけていて、ため息が出るほど美しい。
「素敵なドレスですね。スタイル抜群の社長によくお似合いです」
 真っ先に私がそう言うと、彼女はかわいらしい表情で照れた。
「ありがとう。これ、Confiance(コンフィアンス)のドレスなんですよ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
 Confianceは、母が経営する鑑美苑が展開しているドレスブランドのひとつだ。なにを隠そう、今私が着ているパーティースーツもConfianceのものである。
 彼女は私が鑑美苑の娘だと知っているから、あえてうちのドレスを選んでくれたのだろう。
 あとで一緒に写真を撮ってもらおう。母に送ればきっと喜ぶ。

 ひとしきりお互いのドレススタイルの褒め合いで盛り上がったあとは、しっかり仕事モード。パーティーの進行の流れや各々の役割についてしっかり確認し、成功に向けてモチベーションを高める。
 今日のリーダーはホステスである森川社長だ。
「このパーティー最大の目的は、3step Nailsのスタートアップにご協力いただける方々へ感謝を伝え、存分に楽しんでいただくことです。おもてなしの心を忘れることなく、私たちもたっぷり楽しみましょう。本日はよろしくお願いします」