フラれもの同士(原題:頑固な私が退職する理由)


 翌日、私は彼より早く目覚めた。
 時刻を確認するとまもなく正午が迫っていて、朝というには少し遅い時間だった。
 遮光カーテンの裾から漏れる光から、気持ちよく晴れた清々しい天気であることがわかった。
 まるで彼との関係の進展を祝福してくれているようで、幸せな気分になったのを覚えている。
 青木さんはまだすやすやと眠っていた。私はしばし安らかな寝顔を楽しんで、彼を起こさないよう静かにベッドを出た。
 部屋着を身につけ、寝癖が目立たないようバナナクリップで髪をまとめ、キッチンへ。ブランチの準備に取りかかった。

 青木さんと初めて同じ部屋で寝泊まりしたのは、入社したばかりの頃にうっかり丸山夫妻のキューピッド役をしてしまった日の夜だ。
 場所は実家からさほど遠くない京都の民宿だったのだけれど、夫妻の隣の部屋で青木さんをひとりにするのは憚られて、私も彼の部屋に泊まることにした。
 この頃はまだ仲よくもなかったし好きでもなかった。よってお互いに指一本触れていない。
 二度目はこの翌年。
 休日前の退勤後、お互いを含むインターネット事業部のメンバー6人でネットカフェのシアタールームを借り、プロジェクターにゲーム機を繋いで大画面でひと晩中すごろく系のゲームをして盛り上がった。
 私はこの時すでに彼への恋愛感情を自覚していた。彼は私をどう思っていたかはわからないけれど、ふたりの時は敬語がなくなる程度には仲よくなっていた。
 この夜はみんなもいたので、当然色っぽいことなどなにもない。
 そして三回目となる昨夜。私たちはめでたく結ばれた。
 まだ言葉はないけれど、これから新しい関係を育んでいくことになるだろう。
 きっと今日が記念日になる。
 美味しいご飯を作って、彼が起きたらふたりで食べながら今後のことを話そう。
 そこそこ料理ができることを、この日ほど喜ばしく思ったことはなかった。