フラれもの同士(原題:頑固な私が退職する理由)


 青木さんのキスは、最初の最初から容赦がなかった。
 奪うように強引で、噛みつくように激しく、恐ろしいくらいに快感を追い求める、いやらしくも魅力的なキスだった。
 唇を重ねながら、私の背に手を回してファスナーのスライダーをつまみ、下ろす。
 ドレスのファスナーは重い。下ろされるスピードがゆっくりで、初めて肌を晒す恥ずかしさ以上に焦らされているもどかしさを感じた。
 男に任せてばかりのつまらない女だと思われたくなくて、私も彼のシャツのボタンに手をかけた。手先は器用な方なのだけれど、彼のキスが激しくて全然思うように外せなかった。
 観念した彼がキスを止めて私がすべてのボタンを外すまで待ってくれた。彼は時たま私にイタズラを仕掛けながら、楽しそうに「焦れったいな」と笑った。

 今思い出しても、全然美しいセックスじゃなかった。
 ソファーに横たわると髪のセットのヘアピンが刺さり、乳房丸出しの状態で計23本のアメピンとUピンを外さなければならなくなった。
 その後、いい具合いに(たかぶ)っていたところでテーブルに足をぶつけ、その衝撃でコーヒーの残るカップを倒してしまい、お互いに全裸なのに慌てて片付ける羽目になった。
 掃除を終えたところでお互いのセットの崩れた髪が滑稽なことになっていると気づき、ふたりでバスルームへ。
 シャワーを浴びながらイチャイチャしていたのだけれど、いざという時に彼が「着けるものがない」と言い出したため、私が髪を乾かしている間に彼がさっきのコンビニに買いに行った。
 彼が戻って、私のベッドで仕切り直し。
 触れるだけの軽いキスをして、徐々に深いキスをして、お互いの服をもう一度脱がし合い、「今度はスムーズだね」と笑う。
「もうなにがあっても途中でやめねーからな」
「うん。私もやめない」
 ようやく行為に没頭できることになった私たちは、以降、時間を忘れて熱い夜を過ごした。
 ベッドでの彼は、ふだんのチャラチャラした彼とも私とふたりきりの時の彼とも違って、とても甘くて優しかった。