私たちはコンビニでタクシーを降りて、軽く買い物をしてから私の自宅マンションに入った。
こういうのも“お持ち帰り”と表現していいのだろうか。
引き出物の紙袋を部屋の隅に置き、手を洗って、コーヒーの準備に取りかかる。
手回しのコーヒーミルにコーヒー豆を入れて彼に「お湯沸かすから、挽いて」と手渡すと、「俺、これやるの初めて。いい香りがする」と楽しそうにグルグル回した。
挽きたてのコーヒーをドリップして、コンビニで買ったお菓子を開け皿に盛る。テレビの前のローテーブルに置いて、私たちはようやくソファーに落ち着いた。
「はぁ~、挽きたてのコーヒーうまぁ」
「違いがわかるの?」
「いつも会社で飲んでるやつよりうまい、程度にはわかるさ」
ふだん会社で着ているのとは違う結婚式仕様のスリーピーススーツ。いつもよりかっちりセットしている髪。
青木さんが、私の部屋にいる。
コーヒーを飲んでほっこりしている彼とは対照的に、私はずっとドキドキしていた。
この時すでに私たちが両想いであることは確信していた。もしかしたら今夜、関係に進展があるかもしれない。
というか、そのつもりで部屋に誘った。
丸山夫妻の結婚式の夜というのも、きっかけにしやすい絶好のタイミングだと思った。
「ジャケット脱ぐ? 窮屈でしょ」
「脱ぐ。ベストも脱ぎたい」
「じゃあハンガーふたつ持ってくるね」
誰も見ていないふたりきりの空間で、じりじりと距離が縮まっていく。
私の部屋という特別な空間に慣れ、狭いソファーで腕が触れ合うのが当たり前になり、衣類を着崩して。
「私もドレス脱ごうかな」
私がそう言った時には、ソファーの上で指を絡めていた。
「うしろのファスナー、自分で下げれんの?」
彼の問いに対しての、本当の答えはイエスだ。
でもこれが問いではなく誘いであることを理解できる程度には、私は駆け引きのできる女だった。
「難しいかも。やってくれる?」
でき得る限り物欲しげな目で彼を見つめ、絡めた指を撫でる。
「後悔すんなよ?」
「しないよ」
こうなるように仕向けたのは、私なのだから。



