青木さんには森川社長に付いてもらっている。社長には私と一緒に撮れた映像を見てもらいながら、仕上がりのイメージを共有する。
まりこと広瀬には撮影の準備だけ手伝ってもらい、撮影が始まってからは別室でサロンへの連絡を続けてもらっている。
リストのサロン、つまり現時点でネイルシールを導入してくれることになったサロンはそう多くない。その中から無理なくこのスタジオに来られる距離にあるサロンを絞ると、十数件ほどにしかならない。
それ以外にもシールの導入には至らなかったけれど感触のよかったサロンを見繕い、このスタジオへの出張をお願いしていたのだけれど。
「見繕ったサロンすべてに連絡がつきましたが、ダメでした」
広瀬の耳打ちに、絶望の縁に立たされた。扉のところに小さく立っているまりこはまた泣きそうになっている。
青木さんは私たちの様子を見て察したようで、「どうする?」というような視線を私に向けた。
今回はもう、ネイリストなしで乗り切るしかない。
ネイリストが見つかる可能性は、初めから低かった。わかってはいた。
写真なんて簡単に修正できるけれど、心から納得のいくものを作りたかった。私のSK企画最後の大仕事を、なんの後悔もないものにしたかった。
けれど、仕方ない。
カメラマンはプロだ。魅力的な写真を撮ってくれる。
モデルもプロだ。手足の指の先まで手入れが行き届いている。
森川印刷のネイルシールは本当に簡単だ。
置かれた状況でベストを尽くそう。
そう決心してしばらく経った頃、私のスマートフォンが鳴った。電話だ。
私はカメラマンと森川社長に「ちょっと失礼します」と言って、部屋の隅で応答する。
電話の相手の話に、私はつい大きな声を出した。
「えっ! 本当に?」
スタジオにいるみんなの視線が私に集まる。私は二言三言話して通話を切り、こちらの様子を見ているみんなへ告げた。
「今日来てくれるネイリストさん、見つかりました!」



