青木さんと私でテキパキ話を進めているのを、広瀬が目を白黒させながら聞いている。彼が私たちの会話についてこられていないのはわかっているけれど、今は彼に合わせている場合ではない。
「広瀬は沼田と一緒にネイリスト探しだな」
「は、はいっ!」
青木さんの指示に大きく返事をした広瀬へ、私は印刷したサロンのリストを手渡す。
「広瀬くんが開拓したサロンだよね。雰囲気的に引き受けてくれそうなところがあれば印をつけてくれない? 優先して電話するから」
「わかりました。すぐやります」
ここでまりこがオフィスに戻ってきた。涙で崩れたメイクは、雑ではあるが直っている。
「曽根も、ふたりといっしょにネイリスト探しをやってくれるか?」
「もちろんです。ご迷惑をかけてすみませんでした」
まりこは深々と頭を下げ、広瀬が印をつけたリストを受け取る。
「撮影開始まで約2時間、最善を尽くそう」
そう告げ自分のデスクへ向かった青木さんの背中へ、まりこが熱い視線を送っている。
「青木さんって、あんなにカッコよかったんですね」
「……え」と声を出してしまいそうになった。
えもいわれぬ焦りのような感情に見舞われる。
彼がカッコいい男であることが、とうとうまりこにもバレてしまった。
ミスをフォローしてもらったことが引き金となって、彼を好きになってしまったかもしれない。
いずれにしろ、彼女の彼を見る目が変わったのは確かだった。
「沼田さん、これお願いします」
広瀬に印のついたリストを手渡されて我に返る。
「あ、うん。ありがとう」
そうだ。今は仕事に集中しなきゃ。
ライバルが増えたかもしれない不安ごときでパフォーマンスを落としている場合ではない。
そうは思うものの、数メートル先の青木さんに視線を移さずにはいられなかった。
彼はカメラマンと話しているようで、まじめな表情で段取りの変更について説明をしている。
私は胸に溜まったモヤモヤを強く短く吐き、デスクの電話機の受話器を上げた。
「お忙しいところ失礼いたします。私、株式会社SK企画の沼田と申します」



