涙で濡れた顔をなんとかするため、まりこがオフィスを出てお手洗いへ向かったのを見届けて、青木さんは真顔に戻った。
「で、どうするよ?」
「えっ! なにか作戦があるからなんとかするって言ったんじゃないんですか?」
青木さんの言葉に希望の光を見ていた広瀬は、ふたたび顔を青くする。
「曽根にはああ言うしかないだろ。なんとかしなきゃいけないのは事実だし、作戦はこれからおまえたちと考える」
まりこの失敗は今後の仕事に活きればいい。この経験が彼女を成長させてくれることを期待しよう。
問題は現時点で午後からの撮影に協力してくれるネイリストがいなくなったこと。
解決策は代わりのネイリストを見つけること以外にない。
しかし、今日の今日で、しかも夜になるまでずっと撮影に協力してくれるネイリストを見つけるのは至難だ。
どのサロンも暇ではない。大切なお客さんの予約がある。私たちのために予約を断るなんて、ふつうのサロンならしないだろう。
空いているネイリストがいないか、まずは広瀬が契約を取ったサロンのリストを見て、片っ端から当たってみよう。
それでもダメならネットで探して電話してみよう。私の行きつけサロンにも聞いてみよう。
「ネイリストは私がどうにか探します。でもすぐには無理です。時間をください」
見つからないかもしれないけれど、できる限りのことをする。
見つからなかったら、素人だけれど私たちでなんとかするしかない。粗い仕上がりになっても、そう見えないよう加工する。
「よし、頼んだ。ネイリストが必要なのは素材用のパーツ写真だろ? 先にHOW TO動画から撮るよう段取りを変えられないかな」
「大丈夫だと思いますけど、カメラマンとモデルは段取りの通りに準備をしてくれていると思うので、連絡を入れた方がいいと思います」
「わかった。モデルとカメラマンには俺が連絡する。ヘアメイクとスタイリストはいたっけ?」
「いません。趣旨とイメージの説明だけして、モデル本人にお任せしてます」



