今日は午後から、都内のスタジオでスリステのための撮影を行う。
プロモーション用、そしてユーザー用に、動画と写真素材を作るためだ。
ちゃんとしたスタジオを借りているうえ、プロのパーツモデルやカメラマンを呼んでいるので、今日の撮影がこのプロジェクト最大の仕事といえるだろう。
午後はずっと撮影にかかりきりになるので、午前のうちに通常業務を終えなければならない。
そのつもりで昨日までに仕事を調整してきたから出社するなりバタバタすることはないのだけど、こんな時に限ってトラブルは起こるものである。
「え、それどういうこと?」
追及する私の声に、まりこは萎縮したように唇を歪ませた。
彼女も顔面蒼白しているが、私も自分の頭部の血の気が引いているのがわかる。
彼女は数秒前、私に「手配していたネイリストが来られないことになってました」と言ってきたのだ。
「ネイリストさん、事故で怪我をしてしまったそうで、今日の撮影に参加できなくなったと数日前にメールが来ていました。私、そのメールに気づいてなくて……」
状況はわかった。来られないことになっていた、という不思議な表現の意味もわかった。
「メールは全部読んで仕訳しなさいって、いつも言ってるよね!?」
焦りでつい大きな声を出してしまった。
周囲の視線がこちらに集まったのを感じて冷静さを取り戻す。
「すみません……」
社外の人とのやりとりはメールで行うことが多い。チームに所属していればメーリングリストに自分のアドレスも入るため、自分には直接関係ないメールも受信する。
私たちSK企画のウェブデザイナーは複数のチームに所属して働くので、必然的に受信するメールも多く、内容の確認をするだけでもひと仕事。
だからといって、確認を怠るなど言語道断だ。
まりこが反省していることは表情から伝わっているので、これ以上糾弾しても仕方がない。
私はより冷静になろうと、深呼吸した。
「とにかく、始まる前に気づいてよかった」
だからといって、問題が解決したわけではないけれど。



