『ええやんかぁ、司くん。イケメンやし、お金持ちやし。今どきはそういう人、ハイスペックとか言うんやろ?』
司は、たしかに顔がいい。今は東京のホテルをいくつか仕切っていて、それなりに稼いでいることも知っている。
「ハイスペックて、まぁそうかもしれんけど……」
あいつほどのクズを、私は見たことがない。
私と結婚したとして、いったい何人の愛人をこさえるつもりかわかったもんじゃない。
母は司の女癖の悪さを知らないのだろう。
本人が乗り気だというのが真実なら、本性を知っている私とならビジネスライクに契約結婚して、自由奔放に女遊びができるとでも思ったからに違いない。
真剣に愛し合い家庭を築くつもりなど、毛頭ないはずだ。
『ご両親を含めて一度会食するくらいしてもバチは当たらへんやろ。ほんならね~』
母は上機嫌にそう言って、一方的に通話を切った。
部屋が静けさを取り戻す。どっと疲れが押し寄せた。
耳に残る母の声を消したくて、私はおもむろにテレビをつけた。深夜番組のゆるい笑いに包まれる。
「見合いって……はぁ……そう来たか」
鑑美屋としては、御園グループとの縁談なんて願ってもないパイプだろう。
相手がいないのなら、とゴリ押しする気持ちはわからなくもない。
もし私が会社を辞めるまでに青木さんとなんの進展もなかったら?
私はこのことについて、ずっと真剣には考えないようにしていた。
だけどまさかここに来て「他の男と見合い結婚する」という選択肢が出てくるとは思わなかった。
司と形だけのお見合いをして、会社同士の結びつきを強めるための政略的な契約結婚をする未来が、もしかしたら来るかもしれない。
もしそうなったら、私の青木さんへの気持ちはどうなるの?
いつか消えてなくなってくれるなら、まぁいい。
怖いのは、結婚してもずっと彼を好きなままで、でも結婚しているから特別な関係になることもできず、一生失恋の苦しみに耐えなければならなくなることだ。
司は私にも愛人を持つことを勧めてくるだろう。
だけど、私は彼を愛人なんかにしたくない。
彼にはちゃんと胸を張れる形で幸せになってほしい。
たとえその相手が、私でなかったとしても。



