理沙先輩とのランチは、終始こんな感じで楽しく終わった。
彼女はこのあと営業所に戻り、少しだけ残務を片づけて保育園へ子どものお迎えに行くという。
「ふたりとも、今日はありがとう。またね」
「こちらこそありがとうございました。今度は女子会しましょう! 菊池さんも呼んで」
「うん、是非。菊池さんにもよろしく伝えておいてね」
私の実家とは違う、まるでホームドラマのような幸せ家庭を築いている彼女は、インターネット事業部で夢を叶えていた頃と同じくらいイキイキとしていて輝いている。
「丸山にもよろしくな。コケずに帰れよ」
「ありがとう。伝えとく」
青木さんは彼女が他の人と幸せに生きている様子を見て、どう思っているのだろう。
自分より他人の幸せを優先してしまう彼にとっては満足のいくものなのだろうか。
私なら、あんな笑顔で祝福できない。
もし青木さんが誰かを愛して幸せそうにしていたら、ずっとその相手を妬みつづけると思う。
なんと言ったって私は、一度でも彼の心を奪った彼女を、未だに妬み続けているのだから。
「ふたりが結婚式する時は、私たちにも協力させてね!」
去り際、最後に彼女が告げた言葉にドキッとした。
わかっている。
彼女は“青木さんが結婚する時と私が結婚する時の両方で”協力するつもりがあると言っただけで、“青木さんと私がカップルとして結婚する時”を意味して“ふたりが結婚する時”と言ったわけではない。鈍い彼女は、私が彼を好いていることに気づいてすらいないはずだ。
「青木さんってさぁ……」
「ん?」
理沙先輩のこと、今はどう思ってるの?
結婚するってわかったときはどう思った?
私と理沙先輩、どっちの方が好き?
ていうか、私のこと、どう思ってる?
口から出そうになった問いはどれも馬鹿馬鹿しい。
「やっぱなんでもない」
「なんだよ、気になるだろ」
彼は不満げな顔をしているが、私だって不満に思っているのだ。
理沙先輩には好きだと言ったくせに、私には一度も言ってくれない。
理沙先輩、いいなぁ。
私が手に入れたかった人に愛されて、私が好きになった人にも愛された。
「私たちも仕事に戻ろう」
「ああ、そうだな」
私はいつもより速く歩を進めることにした。
泣きそうになった顔を、彼に見られたくなかった。



