私たちが真逆の返答をしたので、彼女はまた声をあげて笑う。
「おい! 俺たち仲よしだろ!」
「幼稚園児みたいな言い方やめてくれません? 同僚として楽しくやってるだけですぅ~」
「なんだよ! 俺、こんなにかわいがってるのに!」
「はぁ~? かわいがるの意味わかってます?」
「あははは! ふたりのやり取り、懐かしいなぁ」
2年前に異動した彼女が懐かしがってくれるくらい、私たちの関係はずっと変わっていない。
変えるチャンスは数えきれないくらいたくさんあった。それでも変化しないのは、彼がそれを望んでいるからだと思う。それ以外考えられない。
私たちがくだらない言い合いを続けていると、理沙先輩が「そういえば」と声をあげた。
「愛華ちゃん。二次会のあと、酔い潰れた青木を送ったんだって? 動画を作ってもらったのに青木の世話までさせちゃって、ごめんね」
不意に投下された話題に、私は思わず肩を震わせる。バレていなければよいのだが。
「え、あー……。送ったというのはちょっと語弊がある、かなぁ。拾ったタクシーに放り投げただけですよ」
嘘はついていない。私はあの日、本当に彼をタクシーに乗せた。
嘘をつかないために、これ以上は話すまい。
「そうだったんだ。もう~青木、しっかりしなよ。後輩の女の子に介抱させるなんて格好悪すぎ」
彼を叱る彼女。密かにホッとする。
「へいへい。その節は申し訳なかったと思ってますよー」
「弱いくせに、すーぐ調子に乗って飲みすぎるんだから」
「いやいや、俺ももう33歳だぜ? 最近は全然酔い潰れたりしてないから」
彼のこの言葉にサインを感じ取った私は、すかさずツッコミを入れる。
「はい嘘です~! この間も担いで帰りました~!」
「ちょっ、おまえ、バラすなよ!」
ナチュラルに自分をピエロに仕立て上げ話の流れを変えられるのは、彼の特技とも言える。
「なーんだ、やっぱり変わってないんじゃん」
「変わっただろ。ほら、髪型とか」
「髪型って、今そんな話してないから!」



