私が勤める株式会社SK企画は、業種としては広告代理店にあたる。もともとは地域密着型のフリーペーパーを発行するのが主力事業だったが、スマートフォンの急速な普及によりフリーペーパーの需要が縮小しつつあるため、ここ数年はウェブ広告やウェブサービスの開発もフリーペーパーに負けず劣らずの主力事業になりつつある。
 そんなウェブ系の事業を運営しているのが、私が所属するインターネット事業部だ。
 需要や売り上げの増加に伴って部は拡大し続けており、3年前には直系の新会社を設立して業務を分担している。
 そして私は、この部のウェブデザイン課に所属しているウェブデザイナーだ。
 担当している複数の企業のウェブサイト運営を行いつつ、クライアントごとに編成されるチームに所属してソリューションを提案している。

 今日は朝礼後すぐにチームのミーティングだ。
 私は少しだけ部長と話をして、パウダースペースで前髪と胸元の巻き髪を軽く整えてから同じフロアにあるミーティングルームへと入室。
 部屋にはすでに他のメンバーが揃っていた。
「愛華さぁん! 辞めちゃうってどういうことですか?」
 泣きつくように尋ねてきたのは後輩の曽根(そね)まりこ。
 新卒で入社して2年目のウェブデザイナーで、このチームでは勉強も兼ね、私のアシスタントとして参加してもらった。発表はしていなかったけれど私が退社することは決まっていたので、後釜にするつもりでチームに呼んだ。
「俺も、今日突然聞かされてビックリしたんですから! 同じチームなのに、水臭いですよ」
 まりこに続いたのは私の1年後輩の広瀬(ひろせ)だ。ウェブコンテンツ課の営業マンで、青木さん直属の部下である。
 青木さんもこの部屋にいるのだが、なにやら急ぎのメールを打っているようだ。話題には乗ってこず、一秒ほど意味深に私と目を合わせて、なにも言わずにノートパソコンに向かった。
 ……なによ。いつもはグイグイ話題に割り込んでくるくせに。
 私はかすかな苛立ちを微塵も見せないよう、笑顔をキープする。