1月末。
 私とまりこは月末の業務に加えて、スリステのイメージ素材作成に追われている。
 ロゴは早々に出来上がったのだけれど、実写素材ーー今回の場合、ネイルチップにシールを貼ったものをカメラで撮影したものの作成に苦戦していた。
「うーん、どうしても模様が光で飛んじゃうなぁ」
「スプレーでマットにしますか?」
「それだとツヤとラメが映えないよ」
「加工して足すこともできますけど、自然な方が綺麗ですもんね」
 ここは社内に設けられた簡易スタジオ。単色背景の写真を撮影することができる、10畳ほどの狭いスペースだ。狭いながらに照明や背景が数種類用意してあり、写真素材の製作に活用している。
 照明の種類や位置、角度を試行錯誤しながら何百回とシャッターを切っていく。
 ひとつうまく撮れても、別のデザインのチップでは別のポジションを探さねばならない。同じデザインのチップでも、置き方次第でベストポジションが変わる。地道な作業だ。
 撮ったら数百枚の中から写真を選定し、より美しく見えるように加工して、素材を完成させる。
 素材の出来映えによって広告効果は大きく変わるので、ここが私やまりこの腕の見せどころだ。あとからある程度の加工を施すとはいえ、写真のポテンシャルは高ければ高いほどいい。
 私たちは結局、この日の午前中をすべてチップの撮影だけに費やした。

「やっぱ実際に人が使ってる素材が欲しいなぁ」
「そうですね。ネイル慣れしている人ほど装着イメージを重要視しそうですし」
「スタートが肝心だし、ちょっとコストはかかるけど、モデルを手配して準備しよう」
 お昼の休憩を取るため、簡易スタジオを出た。
 仕事の話をしながらインターネット事業部のオフィスへ向かっていると、ふとまりこが「ん?」と声をあげた。
「なんだかオフィスが賑わってますね」
 耳を向けると、たしかになにやらガヤガヤしている。
「ほんとだ。なんだろう?」
 オフィスに入ると、コンテンツ課の中心に人が集まっているのが見えた。
 なんだろう?と思ったのと同時に、聞き覚えのある声が。
「あーっ! 愛華ちゃん!」
 人の輪の中心から私を呼んだのは。
「理沙先輩!」
 かつて私が敗北を喫した、あの人だった。