私たちはそれからも他愛のないおしゃべりをしながら、デザートまでしっかりコース料理を楽しんで店を出た。
「どうもご馳走になりました」
「いえいえ。今後ともよろしくお願いします」
「まずはスリステの立ち上げ、成功させましょうね!」
 上機嫌でタクシーに乗った森川社長を、みんなで見送る。交差点を曲がったところで、私たちはホッと息を抜いた。
 楽しい食事会だったとはいえ、あくまで接待。それなりに気を遣っていたのだ。
 特に私は飲みすぎると本性が出やすくなるから、酒類はグラス2杯程度しか飲んでいない。
「まだ7時半かぁ。飲み直しません?」
 女性相手の接待でいつも以上に気を張っていた広瀬の言葉に、青木さんが表情を明るくする。
「いいねぇ。俺も飲み足りないと思ってたんだ」
「はーい! 私も行きたいでーす」
 まりこもノリノリで手を上げた。彼女はかわいい顔をして、意外と飲む。
「沼田さんも来ますよね?」
「もちろん行くよ」
 本性が出るほどは、飲まないけれど。

 私たちは駅の方へ向けてゆっくり歩き、適当な居酒屋に入った。ここなら気張らずに飲めるだろう。
 4人用の狭い個室に案内された。体のサイズを考慮し、一辺に男女の組み合わせで座ることに。私とまりこが先に奥に座ると、さも当然のように青木さんが私の隣に座った。
 席が狭いので、距離が近い。先日タルトを食べた時ほどではないけれど、対面している後輩ふたりにいろいろ悟られないようにしなければ。
「なに飲みます?」
「俺ハイボール」
「僕はレモンサワーで」
「愛華さんは?」
「うーん、私もハイボールかな」
 青木さんと同じものを頼んだのは偶然ではない。悩んだような素振りを見せたのも、わざとだ。