彼女の問いに、私は密かに肩を震わせた。
 まさか森川社長、青木さんに気があるの?
 動揺を悟られないよう、表情は変えずに視線を青木さんへ。
 私の視線に気づいたのか、彼も一瞬だけ私を見た。そしてすぐに彼らしいヘラヘラ笑顔を彼女に向ける。
「俺ですか? いやぁ~、いないっすね~」
 青木さんをロックオンした森川社長は、ここから怒涛の質問攻撃を開始。
「え~、でも彼女はいるんでしょ?」
「残念ながら、彼女も今はいないんですよ」
 彼の答えに内心安堵する。
 よかった、今いないんだ。
 私が入社してから5年以上に及ぶ付き合いの中で、お互いに付き合っている人がいたことは何度かあった。両想いを確信してからも、少なくともひとりはいた。
 ただし、ひとりにつきせいぜい数ヶ月間で、お互いに長続きした試しはない。
「へぇ、意外。すごくモテそうなのに」
「それが、全っっっ然モテないんですよ」
「嘘だ~。こんなにイケメンなのに」
 彼女の言葉に、まりこと広瀬が吹き出すように笑う。青木さんはイケメンというガラではない。
 というより、イケメンがバレていないという方が正しいかもしれない。うまくキャラと表情を作って整った顔を隠している。
 それでも、森川社長は見逃さなかった。
「だらしないのがバレてるんでしょうね。ハゲる前に嫁さんもらいたいなぁとは思ってるんですけど」
 彼はそう言って流している前髪に手櫛を通し、額を見せる。まりこと広瀬はふたたび声をあげて笑った。
「まだ全然大丈夫じゃない」
「いやいや、いつ来るかわからないんで」
 彼の笑顔を見て、一抹の不安がよぎる。
 ……もしかして、あえて隠さなかった?