数年前の話。
 青木さんと両想いであることを確信してしばらく経った頃、青木さんに彼女ができた。
 どうしてそれがわかったのかというと、当時所属していたチームのメンバーとの会話の中で、先輩社員に「そういえば青木、おまえ彼女いるの?」と聞かれて「最近できました」と答えたからだ。
 衝撃だった。叫びそうになった。
 両想いだと思って浮かれていた私は、一気にどん底に突き落とされた気分だった。
 これまで私に対して行ってきた数々の思わせぶりな言動はなんだったの?
 私も乗せられて思わせぶりに振る舞ってきたのがバカみたい。
 こんなやつのことなんか、もう二度と信じたりするもんか。
 私は青木さんに当てつけるような気持ちで、それからすぐに彼氏を作った。
 だけど、そんな気持ちで付き合ったところでうまくいくわけがない。その彼とは3ヶ月も経たないうちに別れることとなった。
 その頃には青木さんも彼女と別れており、私たちはまた距離を縮め、ふたたび両想いであることを確信。それなのにどちらからも告白しないうちに、関係は複雑化していった。
 タイミングが合えば一緒に通勤するようになった。あえて同じ飲み物を注文するようにもなった。どちらかが求めれば抱き合うようにすらなった。
 彼も私のことが好きなはずだ。そうでなければ説明のつかないことが、私たちの間には多々起こっている。だけど物事を都合よく捉えたい私の勘違いであることも否定しきれない。
 駆け引きだけの不毛な状態に疲れて、彼を諦めるために他の男と付き合ったこともあった。
 件の元カノ以外はっきりとは聞いていないけれど、彼も別の女と付き合っていたことがあった。
 何度も諦めようとした。何度も別の人によそ見をした。
 無駄な努力をやってみて、わかったことはただひとつ。
 私はロマンチックな恋愛ごっこをしたいわけでもなければ、人がうらやむようなハイスペックな彼氏を得て満足したいわけでもない。
 ただひとり、青木達也という男のそばにいたいだけなのだ。
 それを理解してからは、無駄な努力は一切やめた。