フラれもの同士(原題:頑固な私が退職する理由)


 金曜日。
 本日をもって、私はすべての業務の引き継ぎを完了した。翌営業日からは有給消化に入り、必要がある時のみリモートワークで勤務する。
 やってみて初めてわかったのだけれど、退職のための引き継ぎとは、なんとも虚しい作業だ。
 仕事をひとつ誰かに引き継ぐということは、この会社における自分の居場所をひとつ失うということでもある。自分の手で自分の居場所を潰していく作業の連続のせいで辞める前から寂しくなっていく。
 あんなに忙しく働いていたのが嘘のように、私はみるみる暇になっていった。引き継ぎを終えるごとにこの会社における自分の価値が小さくなっていくのを実感した。
 後続の担当者にうまく伝わらなかったらどうしよう。クライアントに迷惑をかけたらどうしよう。
 そんな思いで慎重に引き継いだ私の業務は、拍子抜けするほどスムーズに担当の移行が済み、その後も問題なく稼動している。
 代わりなんていくらでもいる。それが会社だ。
 ……なんて言われるけれど、その通りだ。私の代わりは私の同僚たちがうまくやってくれる。

 今日が最終出勤日というわけではないけれど、もうこのオフィスに来ることはほとんどなくなるので、私はデスクやロッカーの私物を片付けることにした。
 デスクにはお気に入りの付箋とペン、ストックのお茶類、そしてウェブデザインのための参考資料にしている書籍。約6年の間に持ち込んだ書籍は、数こそ多くないけれど、1冊あたりがなかなか分厚く重量がある。
 いずれもすぐに使うものではないので、ロッカーの荷物もまとめて適当に梱包して、自宅に送るのがよさそうだ。
 私は空箱をもらうべく、総務部へと向かうことにした。
 SK企画本社はこのビルを2フロア借りており、インターネット事業部は上の階、総務部は下の階にある。ここからなら位置的に、エレベーターを使うより階段を使った方が近くて早い。
 私はオフィスを出て階段へ向かった……のだが、突然バチンと破裂音のような音が聞こえて立ち止まった。