「まりちゃんって、あの人にそっくり」
「あの人?」
まりこはきょとんと首をかしげる。
「青木さんが好きだった人」
「えっ?」
戸惑いの色を滲ませた彼女に、私は構わず続ける。
「夢を持って仕事してて、一生懸命で、あんまり要領はよくないけど、つい助けてあげたくなっちゃう、天性の人たらし」
私はそんな女が大嫌いだ。
男の力を借りないと一人前に仕事もできない女なんて反吐が出る。
そう思っているのに、ひたむきに頑張る姿を目の当たりにしているうちにほだされて、放っておけなくなって、結局私も手を貸してしまう。
大嫌いだったはずなのに、あれこれ世話を焼いている間にかわいく思えてきてしまう。
ひどくずるい人種だ。
「え~、それって褒めてるんですか? それとも貶してるんですか?」
「うらやましがってるんだよ」
「私は愛華さんがうらやましいです。美人で頭がよくて、仕事もできて、会社の誰からも信頼されてて、とにかくカッコいいじゃないですか。あと、いつも優しいし」
優しい……か。
私は思わず苦笑した。
「褒めすぎだよ」
私はそんなに褒められた人間じゃない。
「いやいや、全部本心ですから!」
彼女たちと一緒にいると、自分の性格の悪さにほとほとがっかりさせられる。
彼女たちが周囲をリスペクトしながら自分を高めているのに対し、私は自分より不器用な誰かを下に見ることで己の価値を確認してばかり。
彼女たちの邪気のない言葉を浴びるほど、自分の思考がいかに打算的であるか思い知った。
それでも。
「別に口に出さなけりゃいいんじゃね?」
「仕事できる方が価値あるだろ」
「おまえは本当にすごいな」
「頼りにしてるぞ」
そう言って「私も捨てたもんじゃないな」と思わせてくれたのは、いつも青木さんだった。
青木さんって素敵だよね。まりちゃんが好きになる気持ち、私、すごくわかるよ。
私は喉元まで出かかった言葉を飲み込み、にっこりと微笑んだ。
「企画、頑張ってね。私、会社辞めちゃうけど、この企画が通ると信じてリリースされるのを楽しみにしてる」



