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急に鳴ったスマートフォンを手に取ったのは数分前。


その数分間で私は一体何度目の唸り声を、彼に聞かせているのだろうか。



「お願い!柚月(ユズキ)しか頼る相手がいないんだ」



必死こいてそう語りかけてくる幼なじみの遥人(ハルト)の言葉は、藁にもすがる思いで電話を掛けてきたのが明白だった。



「ダブルデートの彼女役……ねえ」


「一日だけ、俺の彼女のフリしてればそれでいいからさ。頼む!」



久々に会ったという同級生の友達と食事をした時に、同級生が彼女の惚気話に花を咲かせたらしい。

そこまでは普通だ、ただ大人になったとカッコつけたいが故に、彼女がいると嘘をつく馬鹿はこの男以外知らない。


なぜそんな見え透いた嘘をついて、それでこっちが振り回されなきゃならんのか。



「それでダブルデートはいつなの?」


「明日」



ああ、本当に……昔からスケジュールとか組むの苦手なの変わってないなあ。


小学生の頃なんか夏休みが終わる前日に泣きながら全宿題を抱いて、私の家にやって来たこともあったっけ。


馬鹿なのは健全なようで、昔も今も変わらないことにちょっとだけ笑った。