「愛…、あいぃ……、。」


お母さんは手を伸ばして私を掴もうとする。


でも、私は決めた。


「お母さん、いってきます!」


今迄の精一杯の笑顔で。




神社に入ると、お坊さんの様な人と複数のおじさんが居た。


「そこのわっかの中に座ってくれるかな?」


おじさんが言った。


大人しく座ると、おじさんの中一人…、恐らくこの村の村長だろう。その人が私に向かってこう言った。


「君には辛い思いはさせない。本当に今回はすまなかった。」


謝罪の言葉を人軋り溢すと、「じゃあ、宜しくお願いします」とお坊さんにパスした。


……結構あっけないもんなんだなぁ。


お坊さんが何かを私に掛ける。


冷たい…様な暖かい様な……


次第に瞼が重くなり、気付けば私は寝てしまっていた。







「……目覚めないね~。」


「…う~ん、ニンゲンってこんなに寝るんだっけ?」


「どうだったかなぁ~…」


……なんか子供の声が聞こえる。


今までの出来事は夢?ならば学校に行かなければ。


そう思って目を開けると、そこは見たことも無い場所で私は寝ていた。


「アラ、目覚めたわ!ちょ、ちょっと!主人様を…、あっ、その前に医師様ね。ちょっと待ってね、今呼んで来るわ。」


焦りながら喋るこの人は……


兎みたいな耳が頭についてる…!!


「……キャッ!!」


思わず叫んでしまい、ベッドから転がり落ちて後ろを見ると、そこには小さな狐が三匹。


「わぁっ!目が覚めた!」


「おぉ、可愛い子だねぇ!」


「…主人の好みだね」


クスクス笑う小狐達。


……何で狐が日本語喋ってるの?!


主人って何?!


私、殺されたんじゃないの?!


色んな疑問が浮かんで来るが、一先ず此処から出たい。


「……アハハ……、……さいならっ!」


薄ら笑いを浮かべ、自慢のダッシュでこの部屋から逃げ出す。


「ちょっと!何処に行くつもり?!」


兎の人が何かを叫んでいる。


そんな話聞いている暇は無い。


兎に角走った。


流れる景色は今迄に見たことが無かった。


皆の頭の上に動物の耳が付いてたり、尻尾が生えてたり……。


私を見て驚愕している。


驚きたいのはこっちだ!!


ひたすら走ると、誰も居ない様な森の奥まで来てしまっていた。


一先ず、此処で状況を整理したい。



お坊さんが私に何かを掛けて、私が眠くなって寝てしまった。目を覚ますと良くわからない場所に居て…


いややっぱりわからない。


……私は死ぬ訳では無かった様だ。



「……貴様。此処は我の地だ。…此処へ何しに参った。……我は嫁を迎えに行かねばならんのだ。」



ぼーっとしていると後ろから声を掛けられた。


振り向くと其処には


腰まである艶々な白髪、まるで血の様に真っ赤な瞳。頭上にはふわりと狐の耳がついており、思わず見とれてしまう。


「……あ、すいません…。」


「早く出て行け。我の邪魔だ」


……口が悪くなければ良い男なのに…。


そうぽそりと呟き、踵を返すと後ろから声が聞こえた。


「主人様っ!その子が今回の嫁として来られた子で…っ!」


兎の人は焦った様に此方へ近付いてくる。


「……此奴が…?」


有り得ない、とでも言う様に目を見開きながら此方を見つめる顔の整った人。



…有り得ないのはこっちなんですが。