そこには松本くんの席がある。


本人はもういないけれど、机の上にはマジックで落書きがされていた。


本人が気にしていないのだから、無視しておけばいい。


そう思うのに、体が勝手に松本くんの机に近づいて行った。


机の前まで来て、乱暴に書かれた文字を読む。


人殺し。


お前が死ね。


死刑。


転校しろ。


心ない文字に自分の胸が痛むのを感じた。


「やっぱり、無視できないよね」


小さく呟いて掃除道具入れから雑巾を取り出す。


廊下にある手洗い場で軽く濡らして、松本くんの机を拭き始めた。


幸い水性のペンで書かれていたみたいで、奇麗に消すことができた。


雑巾を片付けて、あたしは足早に教室を出た。


誰かに見られていないか少しだけ不安になったけれど、そんな自分が情けなくなって、すぐに思い直した。


あたしは悪いことはしてない。


堂々としていればいいんだ。