わたくし以外に、どなたかよいひとはいらっしゃらないのかしら、と思っての質問に、ルークさまは、おそろしいくらいに華やかで穏やかな微笑みで、おそろしいくらい正確に退路を塞ぎに来た。


こ、こわい。笑顔の圧がすさまじい。

これでわたくしとではなく、とか、よいお見合いにはなりえませんとか言ったら、よけいにたいへんなことになりそうでこわい。


「いえ、来たらの話です」

「そうだねえ。アンジーはどうなの? お見合いが来たらどうするの」

「刺繍の腕を買っていただくことはありますけれど、わたくしの正体をご存じの方はお見合いなどなさいませんわ」

「来たら、の話だよ。実際、あなたを知っているひとと、以前は婚約なさっていたこともあるだろう?」


ごまかしはできない雰囲気だった。

許されないのではなくて、できないととっさに思った。にじんだ懇願が胸に痛かった。


「わた、くしは」


最初に質問したのはこちらである。ルークさまのように話題を振っては逃げられない。


どなたからであっても、いただいたお話をありがたくお受けいたします。

嘘でもそう言ってしまえばまだ逃げられるのに、そのたった一言が、喉元に張りついて出てこなかった。


「わたくしは、こちらからお願いするわけには参りませんので……」


公爵令嬢兼呪われ令嬢から申し込みがあったなんて日には、お相手を恐怖のどん底に陥れてしまう。


少しずらした返答の隙間を、ルークさまが埋めた。


「アンジー、来たら、の話だよ。来たら、どうする?」

「それは、その。いただいたお話をお受けするくらいしか、できませんわ」

「相手がだれであっても?」

「わたくしはそれくらいしかできませんので」

「家のことは考えないとしたら?」

「それは……お相手に、よりますけれど……」

「たとえば、どのような相手なら折れてくれる?」


ほんとうにこのお方は、先ほどから完全に、こちらの退路を塞ぎに来ている。


折れてくれるだなんて、好みの聞き方が物騒すぎるのではなくって。