赤とアビス


「そうだね」


でももし、あの男たちに絡まれなければ彼と出会うことはなかった。そう思うとちょっとだけ、本当にちょっとだけ、今日のことを良かったと感じていた。


恋人でも友達でもない、隣を歩く彼との距離は微妙だった。多分、私たちの後ろに人が歩いていたら、この人たち恋人じゃないなって思われるくらい。


何度も、口を開きかけた。


彼との関係をここで終わりにしたくないと、心の奥底でそんな思いがグツグツと溢れてくるのに気付いていた。


「着いたよ」


…でも、こんなときに限って臆病になってしまうんだ。意気地無しの私は。


「ありがとうございます」


その後彼から何を言われるもなく。結局私たちはお互いの名前も知らないまま、別れた。