暗闇に包まれた道路に気持ちばかりに設置された街灯が、丁度良く彼の手元を照らしていた。


その街灯が反射して、ヌラリと光る彼の手の甲。


オレンジ色の光だからそのものの色は見えないけれど、きっとそれは…。


その先は何も考えられなかった。


雑音、耳鳴り。涙で滲んでぼやける視界。息が上手く出来なくて、酸素が入って来ない。


必死に息をしようとするのに、すればする程空回りで苦しくて。


どうしようも無かった。只々、怖い。その恐怖に支配され、思い出すのは脳裏に焼き付いたあのときの光景。


「過呼吸か」


この場でただ1人立っている男はそう呟くと、物色するように女に近付いた。