母親同士が、同じ時期にマンションの理事会のメンバーだったことがきっかけで仲が良くなり、そこから友達づきあいが続いている。
わたしと蓮くんも自然と顔を合わせる機会が増えて、一人っ子同士のわたしたちは互いの家を行き来して遊ぶ仲になった。
わたしは子どもなりに蓮くんに世話をやいて、蓮くんもわたしを慕ってくれて、はたから見ても姉弟のようだった…はずなのに。

「実花子ちゃん、僕のお嫁さんになってよ」
幼い彼の言葉に、なんと返したのかは正直覚えていない。

蓮くんによるとわたしは承諾ととれるような返事をしたらしく、今のわたしの態度は彼にいわせると「契約不履行」になるらしい。
子どもの頃のことを持ち出されても、と言いたいのはやまやまだけど、蓮くんの言動は終始一貫しているから逃げ場がなくなってしまう。

まさか四、五歳から今に至るまで、同じ思いを抱き続けてくれるなんて、想像できるわけがない。