ーーー
ーー





「『俺のために俺のこと殺して』って、冬人が言っていました。私に殺されることを本望だと言っていた」

「秋穂さんは、それで言う通り冬人を……」

「いいえ。冬人は自分で死にました。……だけど、私が殺したも同然です」




冬人に『殺してくれ』と頼まれた時、私は無理だと言って首を横に振った。私がきみが好きだった。やさしい世界でずっと生きていて欲しかった。



だけどきみは違ったらしい。

きみはずっと憎んでいた。

私を傷つけた父親を、その息子である自分を、​

────私ときみを引き合わせた運命を。




「冬人は自分で薬を飲みました。私の目の前で、冬人は死んだ」

「貴方に罪はないでしょう」

「いいえ。私が出会ったのがいけなかった。私があの日大人しく殺されていれば、こんな未来はなかったかもしれない。正しいだけの世界だった方が、私も冬人もよっぽど救われていました」



きみが好きだった世界は、本当に優しいと言えただろうか。わかりやすい答えだけで溢れた世界だったら、きみは殺人犯の息子で、私は家族を殺された被害者。ただそれだけの関係で収まったかもしれないのに。


きみと私の関係に名前はなかった。お互いに惹かれあっていることは分かっていたけれど、付き合っていなかった。




「秋穂さん」


彼女は、​───冬人のお母さんは私を止めなかった。名前を紡ぎ、「……お元気で」とだけ言った。




コンクリートが冷たい。数時間もすれば、自分の身体もこのコンクリートと同じくらい冷たくなる。

きみと過ごしたマンションから飛び降りる気分は最高に​、悲しいよ、冬人。



きみは死んだ。私という存在に殺された。

私も死ぬ。きみという存在に殺されて、今からきみに会いに行く。



end.