いつかのきみが言った" そういう優しい世界 "のはなし。
「ね、クソダサい服ってどれ?」
「これ。どう思う?俺はこのセンスが理解できない」
「私も好きじゃないなあ。これが好評だったの?」
「うん。意味わかんないよね」
「冬人の周りのセンスがいかれてるだけじゃない?」
「その説はある。けどまあ、」
───わかりやすい答えだけで溢れてるわけじゃないから面白いよね、
「よくわかんないなぁ」
「センスが足りてないんだよ、秋穂には」
「なにそれ」
わかりやすい答えだけで溢れていない世界が、きみは好きだったらしい。
私には彼の言う意味がよく分からなかった。
わかりやすいことなら多い方がいい。人は言葉に深い意味を持たせるし、言っていることとやっていることが矛盾していることはざらにあるし、察しが悪いと喧嘩になる。
それでもきみは、そんな世界を『人間らしくていいじゃんか』と言って笑っていた。
今なら少しだけ、分かるかもしれない。
きみが言う「わかりにくい世界」が安定して手に入っていたら、あの時の空も、きみの最期の声も、私が感じた気持ちも、全部許されたかもしれない。
「ねえ、秋穂」
「ん」
「俺の世界はずっと優しいよ。秋穂がいるから」
「…なに、どうしたの?」
「ねえ、秋穂」
「ん」
「俺のこと恨んでる?」
「そんなわけないよ」
「じゃあ、俺のこと好き?」
「好きだよ」
「俺のためならなんでも出来る?」
「できる」
「ねえ、秋穂」
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