今までもそこそこ早い時間の電車を選んでいたけれど、人の数がこれだけ違うならこれはこれで気持ちがいいしありだなぁと思う。

どこか時間が潰せるような場所があれば、これからもこの時間帯でもいいのにな……と考えながら歩く。

人通りが少なく歩きやすい歩道を目ぼしいお店を探しながら歩いていて、視界に飛び込んできた人物に心臓が跳ねた。

十メートルほど先にある信号。
その手前に立っているのは間違いなく桐島さんで、突然のことに立ち止まりそうになる。

陸と紗江子に散々けしかけられているせいで変に意識してしまっていて、今顔を合わせたところで普通に会話できる気がしない。
だからといって、先輩である桐島さんをスルーするわけにもいかず……。

このままの距離を保って会社まで行ければ……とも考えたけれど、桐島さんは立ち止まっている状態だし私が追い付くのは時間の問題だった。

どうしよう……と内心焦りながらもゆっくりと足を進めていて、あることに気付く。
桐島さんはひとりじゃなかった。

隣には、スラッとしたスーツ姿の女性が立っている。ボブの長さの黒髪やキリッとしたメイクが雰囲気に合っていて、カッコいい女性という印象を持った。

年齢は桐島さんと同じくらいだろうか。
見かけたことはないけれどうちの行員か、それとも仕事関連か……と考えながら歩いているうちに、会話が聞こえるほどの距離まで近づいてしまう。