「桐島さんも、あとで陸にちゃんと怒ったほうがいいですよ。陸、いつも簡単に頼んだり約束したりするくせに、すぐ忘れるんですから。前も、約束すっぽかされた陸の友達が部屋訪ねてきましたし」

湯気が立つコーヒーを眺めて口を尖らせる。

時計が指しているのは、二十一時半。
なんの連絡もないところを見ると、きっと盛り上がっているんだろう。

「まさか、陸に約束忘れられた男友達が、こうして部屋に来て陸を待ったりしてるの?」

顔を上げると、わずかに目元をしかめた桐島さんが私をじっと見ていた。
なにか言いたそうな顔に、「たまにですけど」と答える。

「陸と約束してたのにって困った顔されて、少し待たせて欲しいって言われたら断れないですし。そういうときに限って陸が電話に出なかったりするから仕方なく」
「こうして上り込んで夕飯までご馳走になった俺が言えることでもないけど、そういうのは少し危ないよ。今まで怖い目に遭ったりはしなかった?」
「それは、はい。悪い人はいなかったから……でも、私も少し怖いなっていうのはあったので、個室に鍵はつけました」

私と陸の住む部屋は、2LDKで、10畳はあるリビングダイニングと、6畳の個室がふたつという間取りだ。

陸の友達がきた場合には、陸の部屋で待ってもらっているけれど、桐島さんの言う通り、他人が家に上がっている状態はなかなか落ち着かない。はっきり言って気持ちが悪い。

個室に鍵をつけてみても、そこまでの安心材料にはならなかった。

もちろん、陸には気を付けるようにしつこく何度も伝えているのだけど……。