「えっ、あ、あの時の……そういえば桐島って……マジか」
「よく考えてから行動に移すことね」
ぴしゃりと言った川田さんに、肩を落とした黒田が「あー……そうっすね。そうします」と覇気のなくなった声で答える。
トントン拍子に進んだ話について行けずにただ傍観していたけれど、ハッとして口を開いた。
「黒田。もう話しかけてこないで。私の番号も消して」
もう何度も言ったのに、一向に聞き届けてもらえなかったお願いだった。
黒田は私をじっと見つめたあと、諦めたように「わかったよ」と呟き、操作するために携帯を取り出したのだった。
「川田さん、ありがとうございました」
目の前で番号を消去した黒田が去ったあとお礼を言うと、川田さんはなんでもない顔で首を振った。
「別にいいわ。この間負けた感じになったし、恩でも売っておこうかと思っただけだから」
その言い分に笑みがこぼれる。
歩道の端に寄った私たちの前を、ビジネスマンたちが行き交う。
「あんなに簡単に引き下がるとは思いませんでした。桐島さんの名前を出せばよかったんですね。全然思いつかなかった」
黒田の仕事も覚えていなかったし、まさかそんな関りがあるとは想像もしていなかった。
まぁ……知っていたところで、私の口から桐島さんの名前を出すのは抵抗があるし、今みたいに上手くことが運んだかは疑問だけれど。
本当に川田さんが助け舟を出してくれてよかった……と胸を撫で下ろしていると、隣からの視線に気付いた。



