「相沢さん、この人に言い寄られてるの?」
川田さんの言葉に、黒田が表情を強張らせる。
大きな取引先である大学病院勤務で、しかも内科部長の娘の川田さんに本当のことを言われるのはまずいと思っているのがわかった。
でも、庇う必要もないので「はい」と答えると、川田さんは不快そうに顔をしかめた。
そして、黒田に視線を戻す。
「あなた、相沢さんに暴力を振るった上、付きまとい行為までしているの?」
「あ、いや……」
「仕事とプライベートは別とはいえ、女性に暴力振るうような人がうちの病院に出入りしているのは問題ね。父に相談してみようかしら」
私がどんな言葉を言ってもずっとヘラヘラしていた黒田の顔色が変わる。
どうやら、黒田にとって川田さんが勤務する大学病院は私が想像する以上に大事な顧客らしい。
「いや、それはちょっと勘弁してください。いいじゃないっすか。プライベートがどうでも仕事はちゃんとしてるんだし。それに内科部長に報告されちゃったら俺、担当外されるかもしれないし困るんですよ」
目に見えて焦りだした黒田の言い分に、川田さんが不可解そうに首を傾げる。
「なに言ってるの? うちの父とかその前に……もしかしてあなた、相沢さんの恋人が誰か知らないの?」
「え?」
「うちの大学病院の副医院長のご子息よ」
それを聞いた黒田は、たっぷりと時間をかけて理解したあと、驚きを顔に広げた。



