そうこうしているうちに、紗江子は私に気遣うような視線を送ったあとで「じゃあ……ありがとうございます。ご馳走様です」と席を立ち、テーブルには私と酒井部長が残される形となった。

食事は済ませてきたって話だし、このお店から出ない意図がわからずにいると、酒井部長が私を見て微笑むから、なんとか笑顔を作った。

「あ……えっと、昨日は送ってくださりありがとうございました」

紗江子がいなくなった今、四人席に隣同士で座っている状態で、周りから見たら不自然に映るだろうとわかった。

だからというのもあるし、それ以前にここは会社からそう離れていない場所で誰に見られるかもわからないので、なるべく早く出たいのが本音だ。

けれど酒井部長には、そんな私の思いはちっとも届いていないようだった。
にこやかな顔を向けられる。

「いやいや。あの時間に女性をひとりで帰すわけにはいかないから当然だよ」
「あの、ランチは済まされたんですよね? でしたら早めにお店を出た方がいいと思います。ここ、人気店ですし知っている人にでも会ったら面白おかしく噂にされちゃいそうですし」

噂になるのは勘弁してほしい。
桐島さんとの件で、知りもしない女性行員から睨まれたりしている状態なのに、そこに酒井部長との噂が上乗せされたら何を言われるかわからない。

想像するだけで頭がクラクラする。

あまりこちらが迷惑がっていると伝わっても失礼なので遠回りに言うと、酒井部長はおかしそうに笑った。