そんな声が聞こえたので、「あ、でも昔の話ですよ」と答えた瞬間。
伸びてきた手にポンポンと頭を撫でられた。
大きな手がふわっと髪を撫でる。その温度と感覚がなんだかむず痒く感じて、目が泳ぐ。
「つまらないことを言ってくる人間はどこにでもいるから。気にする必要ないよ」
そう微笑む桐島さんは、きっと私が傷ついているんだと思い慰めてくれているんだろう。
それはわかるのだけれど……正直、こんな風に頭を撫でられるのなんて家族相手以外には初めてだったし、桐島さんが、子供の頃の宝物でも見るような眼差しを向けてくるから余計にいたたまれない気持ちになる。
行内では、面倒な事態にならないようにと一線引いて接しているというのが嘘に思えるほど情に厚い態度をとられ、困惑していた。
それでも、迷ったあとで目を合わせると、優しい微笑みがそこにあった。
スキンシップも表情も、行内で見かける彼とあまりに違う。
行内のがオフィスモードで、今が本当の桐島さんだということなんだろうか。
だとしたら、プライベートモードの桐島さんの距離感はおかしい。
「あの、本当に昔のことなので大丈夫ですから」



