かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました



「言い寄られて困ったりしてない?」
「いえ。大丈夫です。そもそもモテませんし」
「さすがにそれは嘘だって、俺にもわかるよ」

桐島さんは、本当に私が冗談を言ったみたいに笑う。
違うと否定したかったけれど、これ以上こんな話題を続けるのもバカバカしく思えたので「桐島さんは、イメージのままですね」と返す。

「行内で見かけていた通り、紳士的で人当たりがいいし、モテるのもわかります。さっきみたいな私のなんでもない話にも、退屈そうな顔ひとつ見せずに相づち打ってくれますし」

私がいつ〝ラ行〟を取得したかなんて心底どうでもいいと思うのに、桐島さんは微笑んでくれた。

来る者来る者全員を斬ったって事実があるにも関わらず、桐島さんに〝冷たそう〟という噂がないのは彼の普段の態度のせいだろう。

私自身、桐島さんは誰が相手でも穏やかな笑みを浮かべているイメージしかない……と考え、あれ?とわずかに疑問が浮かぶ。

たしかに〝誰が相手でも〟綺麗な笑顔を浮かべて対応していたけれど、今見せてくれている、柔らかい笑みはやっぱりそれとは少し違う気がして、さきほどチラッと頭に浮かんだ違和感がよみがえる。

行内で見かけていた笑顔は、もっと〝完璧〟で〝事務的〟に見えた。
笑顔ではあるけれど、一線引かれた感じの雰囲気があった気がする。

そんな指摘は失礼かなと思いつつもそれを伝えてみると、桐島さんは「ああ、会社ではなんでも笑って交わしてるからかな」と嫌な顔ひとつせず教えてくれる。