思わせぶりな台詞や態度から、好意的な感情を察知しているのだけど……困っているのはその先だ。

それを嫌だと思えない自分がいて、そこに困惑している。

威嚇射撃できないうちにあっという間に距離を縮められるという初めてのケースに戸惑っている最中だ。

陸や紗江子が、桐島さんは私に気がある、みたいなことを呪文のように言ってくる度に、言葉では否定しながらも、心の中ではそれを期待している自分もいる。

桐島さんが素を出せるのは私にだけならいいな、とか。
この手で他の女の子に触れて欲しくないな、とか。

特別に想ってくれていたらいいな……とか。

桐島さんが周りには見せないような笑顔を向けたり、特別扱いしているような言葉を言うたびに、思わずにはいられない。



「どういうこと? だってこの間はいいって言ったじゃない」

出勤して、融資課に向かおうとしている緒方さんを呼び止めて、やっぱり桐島さんに紹介する約束はなかったことにして欲しいとお願いすると、思い切り顔をしかめられた。

「そうなんですけど……事情が変わりまして。一度引き受けたのにすみません。無理なので他の人に頼んでください」
「他に桐島さんと仲がいい人なんていないじゃない。だから相沢さんに頼んだんでしょ?」

通路の一角。腕組みをした緒方さんにじろりと見られる。