『もしも今後川田が相沢さんになにか言いにきたとき困るから、俺の番号、入れておいてくれる? よければ相沢さんのも教えて』

あの日の別れ際、桐島さんがそう言い、携帯番号とメッセージIDを交換した。
アドレス帳に追加された〝桐島佑太〟の名前を眺めながらぼんやり考える。

陸がいつか私の事を鈍感だって言っていたけれど、それは少し間違っている。
私はあくまでも、恋愛に対して若干の苦手意識があるだけだ。

他人の恋愛事情に鈍感というか、疎いのは否定しないし、同期で行内の恋愛事情を話したりしていて私だけ知らない、みたいな事はよくある。

だけど、それはあくまでも他人の恋愛の話であって、自分の恋愛となれば話は別だ。

よく見つめられたり食事に誘われ続けたりすれば、もしかしたら気があるのかもしれないって警戒ぐらいするし、相手が自分に好意的な感情を持っているか、それが異性として特別な感情なのか、それぐらいは感じ取れていると思う。

以前紗江子に、「澪はこっちを狙ってる肉食獣を一キロ先で威嚇射撃して戦意喪失させるよね」なんて言われた事があるけど、まさにそんな感じだ。

だから……たぶん、私は男性が苦手というより、自分に異性としての好意を持っている男性が少し苦手なのかもしれない。

まぁでもそんなわけだから、陸や紗江子が言うように、桐島さんが私を少し特別扱いしている事に気づかないわけでもなく。

正直、自分自身でもどうしてこんな地雷ばかりを持つ面倒な女を?とは思うものの、桐島さんの言動を見る限り、たぶん……恐らく、そう……なのかなと、推測せざるをえなくなっていた。