こんな人通りの多い歩道で手を繋いで歩くなんて正気……?と思い、断ろうともしたのだけれど、立ち止まり私を待ってくれている桐島さんを見たら、なにも言葉が出てこなかった。

一歩近づき、差し出された手にゆっくりと自分の手を重ねる。

優しく握ると同時に微笑んだ桐島さんに連れられるようにして、そっと歩き出す。

トクトクとうるさい胸。
熱を持つ頬。

桐島さんの微笑みに、さっき言われた言葉が重なる。

『でも俺は比べるまでもなく相沢さんの方が綺麗で可愛いと思うけどね』
『俺はそれくらいの子の方が好きだよ』

その言葉に特別な意味なんてあるはずがないのに、陸と紗江子に洗脳されたせいで頭の中でリピートされる声が甘く色づく。

もしも……もしも桐島さんに好きだなんて言われたら、なんて考えるだけで、喉を通る空気が期待と戸惑いで震える。


これが恋の入り口だとしたら、この先、正気でいられる自信がない。