朝はさすがに時間がないからと、桐島さんにその日のランチに誘われた。

正直ふたりきりでのランチは誰かに見られたら危ない。
そんな私の心配を知ってか知らずか、桐島さんが連れて行ってくれたのは半個室のあるお店でホッと胸を撫で下ろしたのだけれど、考えてみれば当たり前だ。

桐島さんだって、周りの視線を集めながらしたい話でもないだろう。

そう思うと、本人が話したくないことを無理やり聞き出すようで今さら申し訳なさが浮かんでくる。

初めて入る創作料理のお店をオレンジ色の照明が控えめに照らす。古民家のような雰囲気で、私はここに来るのは初めてなのにとても落ち着く空間に感じた。

桐島さんが「女性にはこれが人気らしいよ」と教えてくれたのはワンプレートのランチメニューで、その中からアジアンディッシュセットを選ぶ。桐島さんはパスタセットを注文していた。

オーダーをとった店員さんが席から離れ、水の入ったコップをいじりながら「あの」と話を切りだした。

「私、朝はあんな風に言いましたけど、桐島さんが話したくないことだったら全然……その、私は桐島さんに話を聞いてもらって気が楽になったので同じようにと思って話を進めちゃったんですけど、みんながみんなそうじゃないなって思って。正義感の押し付けは、受け取り方次第で迷惑になっちゃうって知ってたのに、私強引にしちゃって……」

今までの私の態度で不快な思いをさせていたら申し訳ない……と思い言うと、桐島さんはキョトンとした顔をしてから笑い出した。
楽しそうな笑顔に拍子抜けする。