没落人生から脱出します!

 * * *

 時は過ぎ、エリシュカは七歳になっていた。

「リアン、お仕事終わった?」

 薪割りの手伝いをしていたリアンは、こめかみを伝う汗を左腕で拭きとり、顔を上げた。
 青い目に期待をにじませたエリシュカが、陰から様子を窺うように見ている。

「もう少しです。どうしました、お嬢」
「あのね、これ見て」

 エリシュカは背中に隠していた手を、そっと前に出した。小さな手のひらに、小さな赤い実がたくさんのっている。

「摘んできたの。一緒に食べよう」
「……旦那様に拾い食いはするなと言われてるんじゃないですか」
「拾ってないよ。摘んだんだもん!」

 エリシュカの見た目は、楚々としたお嬢様だが、中身はかなりのお転婆だ。キンスキー伯爵家の広い敷地のどこにでも現れ、木に登っては侍女に悲鳴を上げさせている。ドレスを引っかけて破くのも日常茶飯事だ。侍女ももはや彼女を止めることは諦め、出来る限りドレスを汚さないようにと、白いエプロンをつけさせている。
 母親であるキンスキー夫人は彼女に無関心だし、使用人が諫めるにも限度がある。そのため、エリシュカは奔放に育っているのである。

「だいたい、お嬢はまだ勉強の時間のはず……」
「お、終わったよ!」

 エリシュカが焦ったように拳を握りしめる。すると手の中の実が潰れてしまったのか赤い汁がエプロンにとんだ。
 白いエプロンについた赤いしみに、エリシュカはバツの悪そうな顔をした。