没落人生から脱出します!

 翌日、エリシュカとリアンはモーズレイ氏の屋敷に向かった。
 場所は街の中でも外れの方だ。昔は中流階級がこのあたりに屋敷を構えていたらしいが、街が北側を中心に発展していったため、やや不便な場所になっていった。裕福な貴族はそれに伴い引っ越していき、空き家が多く残された。
 やがて高所得の平民が住むようになっていったが、元が中流階級の持ち家であるため敷地が広く、買い手がつかない家が多くある。
 モーズレイ氏はそのうちの一軒を格安で手に入れたのだそうだ。

「ここですね」
「ここだな」

 屋敷の規模からいえば、大きめだ。体術の家庭教師がどれほど儲かるものなのか分からないが、それなりの収入はあるのだろう。

「待っていたよ。こっちだ」

 モーズレイ氏は、今日は動きやすい服装をしていた。襟付きのシャツではなくTシャツを着ている。

「ご家族はおられますか? メインの使用者がモーズレイ様ということで調整してよろしいでしょうか」
「ああ。結婚したらまた呼ぶよ」
「その際は代金をいただきますよ?」

 リアンの念押しにモーズレイ氏は苦笑する。
 ランプや、洗濯機など数々の魔道具の調整を、エリシュカはリアンに教わりながら行った。
 幸い、やり方はそこまで難しくはない。魔道具の魔法機構の部分に属性中和の機構を加えるだけだ。
 学校で魔法や魔石の扱いについて学んでいるエリシュカにとっては、すぐに習得できるものだった。

「この調子ならひとりででもできそうだな。これからは出荷前の調整を手伝ってもらおうか」
「はい!」

 役に立つというのならば嬉しい。エリシュカが張り切って腕まくりをしたとき、玄関の扉が勢いよく開いた。

「先生!」
「あれっ、坊ちゃん」

 ひとりの少年が、入ってきた。後ろに護衛らしき青年もいて苦笑している。