「……そうだな。じゃあエリク、お前に魔道具の調整方法を教えよう」
「え? わ……僕がですか?」
突然、自分に振られて驚いていると、リアンがそのままモーズレイに向き合い、話を進める。
「彼は新人なんですが、あなたの屋敷の魔道具を、彼の研修用に使わせていただくことは可能ですか。そうであれば、無料で調整を行うことができます」
「本当か?」
「ええ。けれど、できるのはこの一回だけです。どうか今後は、正規の魔道具店でお求めください」
「もちろんだ」
モーズレイ氏は喜び勇んで、顧客名簿を記入する。
そのタイミングで戻ってきたリーディエは、先ほどとは一転し、穏やかに話している様子に、驚きを隠せなかった。
「あ、さっきのお嬢さん、悪かったな。イライラしていて。腕、痛くなかったか?」
「いえ……大丈夫です」
不思議な気分で、リーディエはモーズレイを見つめた。謝られるなんて思わなかった。女であり平民であるリーディエに対しては、多くの客が居丈高な態度をとる。自分が見ていない数分間になにがあったのか分からないけれど、おそらくはエリシュカのおかげだろうと思えた。これまで似たようなことがあっても、リアンとルーファスの対応で、客がここまで機嫌を直したことはない。
(……変な子)
リーディエはどんな顔をしたらいいのか分からなくなり、ちらりとエリシュカをうかがう。彼女はうれしそうに微笑んでいた。
聞いていれば、エリシュカは魔道具の調整にかり出されるらしい。
貴族のお嬢様が、一時避難で叔父の元へ逃げてきただけなら、そこまで覚える必要などないはずなのに、どうしてこの子は、喜んでいるのだろう。
「では明日、お伺いします!」
「ああ、頼むよ」
笑顔で帰って行ったモーズレイ氏を見送るエリシュカの背中に、リーディエはぽつりとつぶやく。
「……さっきはかばってくれてありがとう」
「いいえ。リーディエさんこそ、毅然としていて格好良かったです」
「あなたもね」
なんと返していいのか分からず、リーディエはそれくらいしか言えなかった。



