ヴィクトルは顧客台帳を手に、眉間に皺を寄せる。
「ありませんね、お客様」
「だが、アルキットという男は、ここで買ったと言っていたぞ?」
「そのアルキットという方も顧客台帳にはありません。そもそも魔道具は転売を禁止されているはずです。本当にその男はこの店で買ったのですか?」
ヴィクトルが出てきた途端、男は少し弱気になった。どうやら最初は、小柄な少年と女性従業員しかいないと思って、威圧的に話していたらしい。
(逆に、気の弱い人なのかもしれないなぁ)
そんな風に考えながら、エリシュカは彼の肩が下がっていくのを見つめる。
「……そこまでは知らない。ようやく仕事が決まって、田舎から出てきたばかりだったんだ」
どうやらこの男自身も騙されたようだ。すっかり落ち込んだ様子に、エリシュカはやや同情した。
「落ち着いてください。お茶を入れてきます」
エリシュカがキッチンに向かおうと奥の扉を開いたところで、リアンが入ってきた。
「無事か」
「え? あ、大丈夫です。これから詳しく話を聞くところですからちょうどよかった」
エリシュカがあまりに普通に笑うので、リアンは拍子抜けした気分で、椅子に座る男を見つめた。
彼は最近この街に越してきたクリフ・モーズレイという武闘家だ。とある貴族に、子息への体術の家庭教師を頼まれ、田舎から出てきたばかりなのだという。
年齢も年齢だし……と、今後を見据えて彼はとある屋敷を買った。
以前住んでいたところは田舎で、魔道具はあまり普及していなかったために知識はない。
そのため、詳しい使用人を雇用しようと仲介所を歩き回っていたとき、アルキットという男と出会い、必要な魔道具をすべて整えてもらうことになったのだという。
「ありませんね、お客様」
「だが、アルキットという男は、ここで買ったと言っていたぞ?」
「そのアルキットという方も顧客台帳にはありません。そもそも魔道具は転売を禁止されているはずです。本当にその男はこの店で買ったのですか?」
ヴィクトルが出てきた途端、男は少し弱気になった。どうやら最初は、小柄な少年と女性従業員しかいないと思って、威圧的に話していたらしい。
(逆に、気の弱い人なのかもしれないなぁ)
そんな風に考えながら、エリシュカは彼の肩が下がっていくのを見つめる。
「……そこまでは知らない。ようやく仕事が決まって、田舎から出てきたばかりだったんだ」
どうやらこの男自身も騙されたようだ。すっかり落ち込んだ様子に、エリシュカはやや同情した。
「落ち着いてください。お茶を入れてきます」
エリシュカがキッチンに向かおうと奥の扉を開いたところで、リアンが入ってきた。
「無事か」
「え? あ、大丈夫です。これから詳しく話を聞くところですからちょうどよかった」
エリシュカがあまりに普通に笑うので、リアンは拍子抜けした気分で、椅子に座る男を見つめた。
彼は最近この街に越してきたクリフ・モーズレイという武闘家だ。とある貴族に、子息への体術の家庭教師を頼まれ、田舎から出てきたばかりなのだという。
年齢も年齢だし……と、今後を見据えて彼はとある屋敷を買った。
以前住んでいたところは田舎で、魔道具はあまり普及していなかったために知識はない。
そのため、詳しい使用人を雇用しようと仲介所を歩き回っていたとき、アルキットという男と出会い、必要な魔道具をすべて整えてもらうことになったのだという。



