没落人生から脱出します!

 従僕に荷物を持たせて、ご夫婦が帰って行くと、茶器を片付けているエリシュカを見ながら、ヴィクトルがぼんやりとつぶやく。

「エリクは、所作が上品だよね」
「そうですか?」
「生まれって自然に出るんだなーと思うよ。こういうとき」

 聞けば、ヴィクトルはこの街の中でも貧民が多いエリアの出身らしい。魔道具は高価なので、平民向けとはいえ、来る人は富裕層が多い。それに見合う接客を覚えるまでに、相当苦労したのだそうだ。
 そもそもエリシュカは自分の所作など気にしたこともなかったが、彼を見て違和感を覚えたことはない。

「だとしたら、ヴィクトルさんは努力家なんですね」
「そうでもない。俺みたいな階層の出身者が、この店みたいな人気店で働けるのって、ついてるんだよ。解雇されたくなきゃ誰だって必死に覚えるでしょ」

 こんなとき、エリシュカは自分の甘さを突き付けられたような気持ちになる。自分程度の境遇で不幸を語るなんておこがましい気さえした。

「わた……いや、僕も、頑張ります!」
「ははっ。エリクは素直だねぇ。いいとこの子って感じだ」

 ヴィクトルに嫌味を言うつもりはないのだろうが、生まれに関してはエリシュカにどうこうできることではないので、困ってしまう。少しだけ、ヴィクトルとの間に距離を感じてしまった。