「君の銀髪は目立つよ。隠したほうが無難だ。それに、綺麗な髪なんだから切ったらもったいない。ヴィクトル、できるだけ目立たない、麦わらみたいな色のかつらがいいな。頼めるかい?」
「いいですよ。エリシュカちゃん、頭囲を測らせてね。あと、服のサイズと身長教えてくれる?」

 ヴィクトルは淡々と必要な情報を引き出し、ブレイクからお金の入った革袋を受け取ると、「駄賃ももらいますね」と笑いながら出て行った。
 残されたリーディエはふくれっ面のまま拳を握りしめている。エリシュカは申し訳ないような気がして、とりあえず謝罪する。

「あの、リーディエさん、迷惑かけてごめんなさい。でも私、早く役に立てるように頑張りますから」
「よしてよ。あなた貴族で、オーナーの姪なんでしょう。私よりずっと立場が上だわ。私に反対する権利なんてないわよ」

 不満は隠しきれていないが、リーディエは先ほどのブレイクの言葉をきちんと受け止めたようだ。

(感情的なだけの人じゃないんだ……)

 エリシュカは少しほっとする。母親がそうだったから、女性は感情的に怒ることが多いと思っていたが、リーディエにはどこか冷静に物事を捉えるところがあるようだ。

「あ、あの。リーディエさん。私、家を出てきたんですから、もう貴族じゃありません。どうか、ただの新参の従業員として扱ってください」

 エリシュカが神妙に頭を下げると、リーディエは複雑そうな顔をして、「私は厳しいわよ!」と言いながら部屋を出て行った。階段を下りる音が、エリシュカたちにまで聞こえてくる。

「やれやれ、素直じゃないんだから。まあ、気が気じゃないんだろう。あの子はリアンに惚れてるから」

 呆れたようにブレイクが言う。
 やはりそうなのか。エリシュカはなぜか、胸がちくりと痛んだ。