没落人生から脱出します!

 開店すると、『魔女の箒』は忙しそうだった。エリシュカは二階の窓からぼんやりと眺めていただけだが、通り過ぎる人はガラス戸をチラチラと見ていくし、「いらっしゃいませ」というリーディエの甲高い声も響いてくる。

(そういえば、ここの商品、ニホンのものに似ているんだよね。どうしてだろう。まさか、叔父様もニホンの夢を見ているのかしら)

 だとしたら、自分の仲間だ。もしそうだったら嬉しい。
 家族の中で、自分だけ別の世界の夢を見るのがずっと不思議だったし、そのせいでのけ者だとも思っていたから。

(叔父様が来たら、いろいろ聞いてみよう)

 ワクワクしながら、ニホンのことを思い出したり、子ネズミの仕組みを素人ながら考えたりしていると、時は過ぎていく。けれど、待てども待てども、叔父はなかなか来なかった。

 やがて高揚していた気分はしぼんでいき、代わりに不安が高まってきた。
 やっぱり迷惑だったのかもしれない。叔父が来てくれなかったら、ここも出ていかなければならない。だとしたら、どうしよう。まずは仕事? それとも家? 住み込みの職場を捜せばいいのだろうか。

 じっとしていることに耐えられなくなったエリシュカは、一階に下りてキッチンを拝借する。
 お店は接客で忙しそうだし、リアンには二食もお世話になったのだ。今ある食材を借りてお昼ご飯を作ろう。
 ポテトオムレツと葛野菜のスープ、それと保管されていたパン。
 豪華ではないが、味には自信がある。ひとりで買い物に出ることを許されていなかったエリシュカは、あるものを使って料理するのが得意なのだ。