「人の意見に流されるんじゃなく、自分が正しいと思うことを選択しなさい。たとえそれが、少数の意見だったとしても」

 マクシムは黙っていた。その目尻に少しだけ光るものがある。

「マクシム……」

 ラドミールは、双子の兄を頼るように見上げた。

「……御恩情、感謝します」

 マクシムがエリシュカに向かって腰を折ると、ラドミールは彼に倣うようにして頭を下げた。父母はまだ不満そうにしていたが、レッドに追い立てられ、別荘の鍵を持って屋敷を出て行った。

「エリシュカお嬢様……いえ、キンスキー伯爵様。お帰りなさいませ。先ほどは、お出迎えもせず、申し訳ありません」

 使用人たちが集まり、頭を下げる。

「当主と呼ぶには頼りないでしょうけどね。でも、私はキンスキー領を人の住みたくなる土地にしたいの。そのために力を尽くすことだけは、約束するわ。みんなも協力してくれる?」
「もちろんです」
「それと、私の夫となるリアンよ。知っている人もいるわね。今はレイトン商会の商会長をしているの。これからは一緒に住むから、よろしくね」
「はい。よろしくお願いいたします。旦那様」

 かつて一緒に働いた人間もいるからか、リアンは少し戸惑っていた。しかし、息を吸い込むと、堂々とほほ笑んだ。

「みんな、よろしく頼む」

 使用人は一斉に頭を下げた。

 これから、領土を立て直すまでにはいろいろなことがあるだろう。それでも、エリシュカは成し遂げたいと思う。
 慕ってくれた木こりたちの暮らしをよくしてあげたいし、エリシュカをここまで押し上げてくれた人たちに恩を返したい。

「ここを、私の居場所にするんです」

 嘆いていた時期も、逃げていた時期ももう終わり。これからはここで戦うのだ。大切なものを守るために。