割って入ったのはブレイクだ。エリシュカの前には、彼女を守るようにレッドとリアンが立つ。

「兄上がどう言おうと、これはもう決定したことです。速やかに別荘へと移動してください。使用人は用意しておりませんので、自分たちで雇っていただくことになります」
「そんな!」

 悲鳴を上げる母親を、エリシュカは冷めた目で見下ろした。

「人を雇うにはお金がいります。ないのならご自身で稼ぐしかないのです。お父様もお母様も、もっと前に自分たちのやりようを反省し、改めなければならなかったのです」
「お前、親に向かって……」

 まだ言い返そうとする父親に、レッドが一歩近づく。

「お嬢様に危害を加えることは許しません」

 彼が剣の束に手を置いただけで、父親はおびえたように黙り込んだ。

「父上、母上、行きましょう」

 しばしの沈黙の後、マクシムが立ち上がって、項垂れた母親の肩を支える。

「な、なあ、俺たちの学校はどうなるんだ?」

 ラドミールが声を震わす。

「学校を出なけりゃ、貴族子息の俺たちに回ってくる仕事なんてない!」
「仕方ないだろう! 俺達にはもうそれだけの財も地位もないんだ!」

 マクシムが叫び、ラドミールが唇をかみしめる。

「マクシム、ラドミール」

 エリシュカは静かに言った。

「あなたたちの学費は立て替えてあげる。その代わり、ちゃんと卒業して、仕事に就き、私に返済するの。お父様とお母様のやりようをまねるんじゃなく、自分の頭で、何が正しいのか、どうやって生きていけばいいのかをちゃんと考えて」
「……姉上」

 マクシムはほうけたようにエリシュカを見つめた。マクシムは一家で一番頭のいい子だ。それゆえに計算高く、権力にすがる傾向にある。